ワールド・ソロコンサートシリーズ“千年の寡黙”(1998〜)
「千年の寡黙~永遠の時との対話」
林 英哲は和太鼓を駆使して、空間に鮮やかな音のスペクタクルを描き出す演奏家である。
その演奏は、卓越した技術に裏打ちされているが、けして古典民俗芸能の再現ではない。太鼓のソロという演奏スタイルは、林 英哲以前には存在しなかったものであり、それは太鼓という楽器を駆使して現代の音世界を構築するために創造されたものだった。
事実、林 英哲は世界でもっとも先進的演奏家の一人として、ジャズ、クラシック、ロック、古典音楽など、それぞれのジャンルの最高の音楽家たちと共演しており、アジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなど、世界中の演奏家とも積極的に交流を重ねている。
林 英哲のコンサートでは、誰もが素晴らしくドラマティックでイマジネーションに満ちた体験をすることだろう。彼が打ち出すひとつひとつの音からは、信じられないほど豊かな色彩感、そして繊細な感情の揺らぎと情熱が伝わってきて、客席にいながら、彼の打つ太鼓と親密な会話をしているような充実感を味わうことができる。そこで使われる楽器は、ほとんど太鼓だけであるにもかかわらず、彼の演奏はフルオーケストラの交響曲をも上回るほどの、音楽的充実感をもたらしてくれるのだ。
しかし、その感動はいくら言葉を費やしても、正しく伝えることはできない。言えることは、日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなど、各国のステージで林 英哲のコンサートに触れた人々が例外なく、彼が次にコンサートをするのはいつかを知りたがる、ということだ。
「千年の寡黙」とは、バラエティあふれる林 英哲のステージ・メニューのなかでも、もっとも深い精神性と芸術性をもったものとして高く評価されているソロ・コンサートのシリーズ名だ。
「千年の寡黙」を理解するために、予備知識などなにもいらない。シンプルな美しさをもったステージで林 英哲が太鼓で描き上げる芸術空間を、そのまま味わえばいいだけだ。その演奏は、初めて彼のステージに接する人をも必ずや魅了し、林 英哲の音と出逢えた喜びを実感させるに違いない。
(音楽評論家 前田祥丈)
このワールド・ソロコンサート・シリーズは98年モスクワ[チャイコフスキー・コンサートホール]、99年東京[サントリーホール](コンサート・タイトル「月山」)、00年ベルリン[フィルハーモニー室内楽ホール](コンサート・タイトル「千年の寡黙2000」)、01年大阪[ザ・シンフォニーホール]と続き、以後も、林 英哲のライフワークとして世界の優れた音場環境を持つコンサートホールで展開している。
演奏活動30周年の01年9月には自身の故郷でもあり世界遺産に指定された広島、国宝厳島神社の海上の能舞台において太鼓では初めての奉納のソロコンサートを行った。
10年12月にはサントリーホールで「月山Ⅱ」を開催。
16年秋には演奏活動45周年の総決算として9月、八ヶ岳高原音楽堂において(12年「光の道」発表、以後2年おきに新作のソロ・パフォーマンスを発表)美術家ジョセフ・コーネルを取り上げ「コーネルの箱」と題した独創的で挑戦的なソロパフォーマンスを展開。10月には国立劇場開場五十周年記念公演「日本の太鼓」において独奏「千年の寡黙」、11月にはサントリーホールにおいて「風の宴2016~夢のひと刷毛」と題してソロ・コンサートが行われた。
演奏活動45周年(71年~)、ソロ活動35周年(82年~)を過ぎてなお精力的に太鼓音楽の可能性を追求し続けている。
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